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高松地方裁判所 昭和35年(ワ)234号 判決

原告 三島静江

被告 四国電力株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告会社の昭和三十五年五月二十八日の定時株主総会においてなされたすべての決議を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、被告会社は、電気事業を営むことを目的として、昭和二十六年五月一日設立された株式会社で、原告は被告会社の株式七百五十株を有する株主である。

二、被告会社は、昭和三十五年五月二十八日午前十時高松市丸の内二番地の一の被告会社本店において、第十八回定時株主総会(以下単に本件総会と称する。)を開催し、本件総会において、(一)昭和三十四年度下期(同年十月一日以降昭和三十五年三月三十一日までの期間)の営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書および利益金処分案を承認する(第一号議案)、(二)取締役全員任期満了につき新たに取締役十五名を選任する(第二号議案)、(三)監査役全員任期満了につき新たに監査役五名を選任する(第三号議案、(四)元被告会社取締役亡林譲治に対し弔慰金を贈呈する(第四号議案)、旨の各決議がなされた。

三、しかしながら、被告会社定款第二十七条第三項、第十三条によれば、被告会社において会長を置いた場合には、株主総会における議長は会長がこれに任ずるものと定められているところ、当時被告会社においては、訴外宮川竹馬が取締役会長の地位にあつたから、同人が議長をつとめるべきであるにも拘らず、本件総会の議長は、被告会社取締役社長である中川以良がこれに当り、同人において議事の進行をはかり、前記のような各決議がなされたものである。従つて、本件総会は、その決議の方法が定款に違反しているので、前記各決議の取消を求めるため、本訴請求に及んだ

と陳述し、

被告会社の主張に対し、

一、被告会社の会長であつた前記宮川竹馬が、本件総会の議場に出席していなかつたことは、これを認めるが、同人が当日出席しなかつたのは、同人自身の個人的事由(旅行、病気等)によるものではなく、また同人の自発的意思或は平静な常識から決定された意思によるものでもなく、被告会社の他の役員らの策謀強制によつて、自己の意に反して総会への出席を制止され、止むなく本件総会に出席することができなかつたものである。すなわち、右宮川竹馬は、被告会社創立以来代表取締役社長として被告会社を主宰し来り、他方前記中川以良は、昭和三十一年五月三十日被告会社に取締役として入社し、昭和三十二年五月副社長となつたものであるところ、右両者の間に次第に不和軋礫を生じ右中川は被告会社の取締役平井太郎その他の取締役らと相謀つて、宮川竹馬を排斥するための術策をめぐらし、先ず昭和三十五年一月二十五日開催された被告会社取締役会において、当時社長であつた宮川竹馬を取締役会長に、自らを被告会社社長に夫々選任する旨の決議をなさしめ、つづいて同年二月二十六日頃高知市内の旅館三翠園において、訴外西山亀七、同渡辺慶太郎(高知県議会議員)、同溝淵増已(高知県知事)、同仮谷忠男(当時高知県議会議長、被告会社取締役)らを交えて協議を重ねた結果、同年二月二十九日右宮川竹馬において、被告会社の二月定例役員会以後常勤をやめ、最高顧問的な地位にある会長にとどまり、当分の間定款を変更しないけれども自発的に取締役会ならびに株主総会の議長となることを遠慮する等の事項を承諾するならば、同人の被告会社会長としての地位を保証し、被告会社最高功労者としての礼を以て処遇する旨を記載した「覚書」を作成した上、諸般の情勢が自己に不利なことを知つた宮川をして止むなく右覚書を承認させた。ここにおいて右中川は名実共に被告会社の主導権を握るに至り、本件総会の開催にあたつても、右覚書をたてにとつて、当日出席して議長の職責を果す決意を有していた宮川竹馬をして、その意に反して出席することができないようにさせたものである。以上のような事実よりすれば、右宮川竹馬が本件総会当日出席しなかつたことをもつて、被告会社定款第二十七条、第十三条にいわゆる「会長に事故があるとき」に当るものとは到底いい得ないものであり、会長でない前記中川以良が本件総会の議長をつとめたのは、定款に違反する。

二、本件総会における議案中、第二号及び第三号議案については、会長宮川竹馬が議長をつとめていたならば、取締役監査役の選任の方法ならびに結果につき多大の差異を生じたはずである。

と述べた。

証拠〈省略〉

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、

一、答弁として、

(一)  原告主張の請求原因事実中、原告が被告会社の株式七百五十株を有する株主であること、被告会社が原告主張の日時場所において第十八回定時株主総会を開催し、原告主張のような決議がなされたこと、右総会の議長は、社長中川以良がこれに当つたこと、ならびに被告会社においては、株主総会の議長の資格につき、原告主張のような定款の定めがあることは、いずれも認めるが、その余の点は争う。

(二)  本件総会において、被告会社社長中川以良が議長の任に当つたのは、会長宮川竹馬が当日定刻となつても議場に出席しなかつたので、被告会社定款の定めるところに従い、右中川社長が議長をつとめたものである。すなわち、被告会社定款第二十七条第三項、第十三条後段によると、株主総会の開催にあたり、「会長に事故があるときは、予め取締役会の決議をもつて定めた順序により、他の取締役がこれに当る。」旨規定され、右の順序については、昭和三十五年二月二十九日開催された取締役会において、中川社長を第一順位におく旨が決議されていた。而して本件総会においては、会長宮川竹馬は自ら同総会には欠席する旨の届出を被告会社に提出したのであるが、被告会社は、当日定刻前に秘書役中沢力をして、宮川竹馬宅に迎えの車を差し向けて、右宮川の出席の有無をたださせたところ、同人は欠席する旨の意思を表明したものであり、なんら被告会社側において右宮川の欠席を強要したような事実は存在しない。およそ前記定款の規定にいわゆる「会長に事故があるとき」とは、病気、負傷、旅行、不在による欠席その他事由の何たるを問わず、会長が定刻に出席しないため株主総会の議事進行ができないすべての場合を指称するものであるところ、本件総会の場合、会長宮川竹馬は、前記のようにその自発的意思により本件総会に出席しなかつたのであるから、前記定款の規定にいわゆる「会長に事故があるとき」に該当することは当然である。従つて第一順位者である社長中川以良が、本件総会の議長の任に当つたことにつき、何ら定款に違反した点はない。

二、抗弁として、仮りに会長宮川竹馬が本件総会当日欠席したことが、被告会社定款にいう「会長に事故があるとき」に該当せず、中川社長が議長の任に当つたことにつき、定款違反があるとしても、右は本件総会における決議の結果には全然影響しないものであるから、右決議は取り消さるべきものではない。すなわち、被告会社は発行済株式総数千三百五十万株(額面金額一株につき金五百円)の株式会社であるところ、本件総会当日における出席株主数は、一万一千七十七名(この株式数九百六十七万四千九百六十二株)であつて、そのうち本人出席六百三十名(この株式数百五十二万七千百三株)、代理人による出席一万四百四十七名(この株式数八百十四万七千八百五十九株)であつたが、第一号議案については四千九百二十株、第二号議案については一万八千六百五十四株、第三号議案については一万一千三百四十八株、第四号議案については三千八百六十九株の反対があつたのみで、他はすべて異議なく圧到的多数をもつて、各議案が承認可決されたものである。しかも、被告会社は、本件総会の招集通知をなすにあたつては、各議案につき詳細な参考資料を添付していたものである。以上の事実よりすれば、本件総会においては、たとえ何人が議長をつとめようとも、決議の結果に何等差異はなかつたであろうことは、多言を要せずして明白である。

三、なお原告主張のような覚書が作成されたことは、これを認めるが、右覚書は、宮川竹馬と同郷であつて親しい間柄にある高知県の有志七名が、宮川のためを思つて申合せをなし、同人の承諾を得た上、訴外仮谷忠男がその代表として、右宮川の処遇問題につき中川社長に対し協力を求めて来たので、中川社長はこれを諒承して右覚書に捺印したに過ぎず、被告会社と右宮川との間において、契約を締結した趣旨ではない。

と陳述した。

証拠〈省略〉

理由

一、原告が被告会社の株式七百五十株を有する株主であること、被告会社が原告主張の日時場所において第十八回定時株主総会(以下単に本件総会と称する。)を開催し、本件総会において、原告主張のような各決議がなされたこと、本件総会は、被告会社取締役社長中川以良が議長の任に当つたこと、ならびに当時の被告会社取締役会長宮川竹馬が、本件総会に出席しなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、原告は、本件総会においては、被告会社定款の定めに従い、当時被告会社の取締役会長であつた宮川竹馬が議長をつとめるべきであるに拘らず、前記中川以良が議長の任に当つたのは、定款に違反していると主張するので、以下この点につき判断する。

(一)  被告会社は、その定款第二十七条第三項、第十三条によつて、会長を置いた場合には、株主総会の議長は、会長がこれに任じ、会長に事故あるときに限つて、予め取締役会の決議をもつて定めた順序により、他の取締役が議長の任に当る旨定めていることは、当事者間に争いがなく(甲第一号証参照)、被告会社代表者中川以良尋問の結果によると、本件総会当時においては、昭和三十五年二月二十九日開催の被告会社取締役会における決議に基き、会長に事故があるとき議長の任に当る者として、取締役社長(中川以良)が第一順位者に定められていたことが認められる。

(二)  そこで当時の被告会社会長であつた宮川竹馬が、本件総会に出席しなかつた事情につき検討するに、成立に争いのない甲第四号証(覚書謄本、甲第五号証の一と同内容)、第五号証の二(宮川竹馬より西山亀七宛書信控)、同第十号証(刑事事件における証人大内三郎の尋問調書写)、乙第一号証(本件総会議事録)、同第二号証(被告会社第九十二回取締役会議事録)ならびに同第三号証(宮川竹馬の欠席届)の各記載と証人溝渕増己、同仮谷忠男、同西山亀七、同渡辺慶太郎、同山中伝、同宮川竹馬、同大内三郎、同中沢力、同近藤航一郎の各証言、原告本人及び被告会社代表者中川以良各尋問の結果、ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、次のような事実を認定することができる。

(1)  被告会社は、公益事業たる電気事業を営むことを目的として、昭和二十六年五月一日設立せられた株式会社であること、訴外宮川竹馬は、被告会社設立以来、代表取締役社長としてその経営に力を尽してきたものであり、現在の被告会社代表者中川以良は、昭和三十一年五月被告会社に常務取締役として入社し、その後昭和三十二年四月副社長に就任、爾来右宮川竹馬を補佐して被告会社の経営に従事していたものであるところ、右両者の間に次第に溝を生じ、昭和三十三年秋頃から前記宮川竹馬は、副社長である中川以良が他の取締役と相謀つて宮川から被告会社の支配権を奪取しようと画策しているものと臆測するようになり、中川が必ずしも自己の意向に副わない行動をとるようなことがあつたことから、右中川を極度に嫌忌して、同人を半ば公然と誹謗するようになり、両者の関係は急速に悪化し、宮川は、昭和三十四年一月開催の定例取締役会を機会に、副社長中川以良を退社させようとして他の取締役らの賛同を求めたこともあつたが、これに成功せず、その間当時被告会社取締役(社外重役)であつた亡林譲治らの斡旋も行われたが結局不調に終り、両者の対立は激化したこと、一方被告会社の重役間においても、右宮川と中川との対立抗争をめぐつて紛議を生ずるようになり、右宮川がやや独善的で自己を信ずること甚だしく、部下の言に耳を傾けること少なかつたことも手伝つて、右宮川から離反する取締役が多く、次第に支持者を失い、被告会社内部における紛擾を一掃し、経営内容の一新をはかるためには、右中川以良を社長として経営の実権をゆだねるべきであるとの気運をかもし、遂に昭和三十五年一月二十五日被告会社本店において開催された第九十二回取締役会において、出席全取締役の賛成の下に、宮川竹馬を取締役会長に、中川以良を取締役社長に夫々選任する旨の決議がなされ、事実上被告会社の経営上の主導権は右中川以良社長の手に移つたこと。

(2)  ところで、右宮川竹馬が高知県の出身者であつたことと、高知県自身が被告会社の大株主(持株数約百二十五万株)であつたことなどから(従来高知県の県議会議長が、同県のいわば利益代表として被告会社取締役に選任される慣例であつた)、当時の高知県議会議長で被告会社取締役であつた訴外仮谷忠男を中心として、高知県知事溝渕増已、元参議院議員西山亀七、元高知県議会議長で被告会社取締役に選任されたことのある山中伝及び利岡頼道、高知県議会議員渡辺慶太郎、元高知県議会議員北川直重ら高知県関係者(右の者らは、宮川竹馬の知己でもある)の間において、前記取締役会後における被告会社内部の情勢が依然として宮川のために芳しくなく、遠からず宮川は会長の地位をも失うおそれがあることを察知し、右宮川竹馬の将来を憂慮するの余り、宮川と中川との間を仲裁して、被告会社草創期の功労者である宮川の会長としての地位を保たしめ、その晩節を全うさせようとの動きが高まつたこと、かくて昭和三十五年二月二十四日頃、宮川会長及び中川社長らが、被告会社の増資説明会のため、たまたま高知市を訪れたのを機会に、前記仮谷忠男、溝渕増己、山中伝、北川直重、利岡頼道、西山亀七及び渡辺慶太郎の七名が、宮川、中川間の調停に乗り出し、同月二十六日頃宮川、中川らの止宿していた高知市所在の旅館「三翠園」に参集し、種々協議した結果、(イ)宮川竹馬は、同年二月末開催される定例役員会以後は常勤をやめ、最高顧問的な地位としての会長にとどまることとし、従つて被告会社定款は当分の間変更せざるも自発的に被告会社取締役会及び株主総会の議長となることを遠慮すること、(ロ)中川社長及び被告会社取締役平井太郎に対する被告会社のセメント購入に関する告発事件につき、告発者に対し即時取下げさせるよう極力努力すること、(ハ)宮川はいたずらに被告会社関係者を誹謗するような言動をせず、またその側近者をしてかかる言動をさせないこと、(ニ)右各事項を宮川において承諾実行するならば、被告会社関係者は、次期総会以後においても宮川の会長たる地位を保障し、被告会社の最高功労者としての礼を以て処遇すること等を申し合せ、この旨を宮川竹馬及び中川以良に提示して夫々その諒承を得、さらに同月二十九日被告会社本店において定例取締役会が開催された際に、前記仮谷忠男が右申合せの趣旨を被告会社の他の取締役らにも提案して承諾を得た上、被告会社常務取締役大内三郎と協議して、右申合せの要旨を後日のため記録にとどめる意味において、同日附覚書を作成し、右申合せに参加した前記高知県関係者七名の氏名を末尾に列記したこと、而して中川社長は右覚書の趣旨を諒承する意味で、これに捺印したものであること。

(3)  以上のような経過をたどつた後同年五月二十八日本件総会が開催されることとなり、宮川竹馬は、なお被告会社における主導的地位をはなれるに忍びず、情勢によつては本件総会に出席するつもりで、総会前日である同月二十七日鎌倉市の私宅から高松市七番丁所在の会長宅に赴き待機していたのであるが、一方前記のような申合せを行つた仮谷忠男、利岡頼道、北川直重、山中伝ら高知県関係者らも、本件総会の成行を憂慮して右同日高松市に参集して、同市所在「紅羽旅館」に止宿し、宮川会長を招いて、同人が議長をつとめるべきかどうかにつき種々協議したこと、他方原告も本件総会に出席するため近藤航一郎弁護士(原告訴訟代理人)と共に東京より本件総会の前日高松市に来ていたのであるが、原告及び右近藤弁護士は、被告会社が定款の規定に従つて正常な運営をなすことを期待し、当然宮川会長が議長の任に当るべきことを強く主張して、深更まで高知県関係者らと折衝したこと、しかし高知県関係者らは、宮川が前記申合せの趣旨に従わないで本件総会に出席すれば相当の混乱を惹起し、且つ宮川が結局被告会社会長としての地位を失うに至るであろうと情勢判断をなし、宮川会長に対し総会の議長をつとめないことにするよう説得したため、総会当日の二十八日朝に至つて、宮川も漸く本件総会に出席することを断念し、前記利岡頼道に代書させた欠席届(乙第三号証)に自ら署名捺印した後これを被告会社に提出したこと。被告会社としては当日午前八時頃秘書役中沢力をして前記会長宅に赴かせ、宮川に対し総会に出席するかどうかをたださせたところ、宮川は右中沢秘書役に対しても、本件総会に欠席する旨を表明し、結局本件総会に出席しなかつたこと、そのため同日午前十時定刻に、被告会社本店において社長中川以良が議長席につき、宮川会長欠席のため、定款の定めるところにより議長を勤める旨を述べた上、開会を宣し、本件総会が開催されたこと、

以上の諸事実を認定することができるのであつて、右認定を左右するに足る証拠は存在しない。

(三)そこで右認定の事実に基いて、考えてみるのに、被告会社の会長宮川竹馬が本件総会に欠席するに至つたのは、前記のような覚書が作成されていたことが原因をなしていることは、否定できないところではあるけれども、右覚書なるものは、前認定のように宮川竹馬の将来を憂慮する高知県関係者らが、宮川の会長としての地位を維持させる目的で、種々申し合せた結果を記録に止めたに過ぎず、宮川、中川ともにその内容を承認しているとはいえ、右両者或は被告会社を拘束するような約定とは到底認められないこと、本件総会当日中川以良社長その他被告会社側が右覚書をたてにとつて、宮川竹馬の出席を阻止したような形跡は全然存しないこと、宮川竹馬自身欠席届に署名捺印して被告会社に提出していること、宮川は被告会社からの使者に対しても、欠席の意思を明示していること等を考慮に容れると、宮川竹馬は当日本件総会に出席することももとより可能ではあつたが、自己の立場を憂慮してくれる高知県関係者らの説得により、被告会社内部における諸般の情勢を勘案した上、出席すべきであるとの原告や前記近藤弁護士らの意見を排して、自らの判断により、自らの意思によつて本件総会に出席しなかつたものであることを窺うに十分である。ところで被告会社定款第二十七条、第十三条後段において、「会長に事故があるとき」とは、会長が病気、負傷、旅行等の事実的障害があつて、株主総会への出席が物理的に不可能なる場合のみを指称すにとどまらず、その事情はともあれ、会長自らの意思によつて当初から総会に出席せず、もしくは中途より退場した場合等株主総会の運営、議事進行に実際上支障を来す場合をもすべて含むものと解するのが相当であり、前記認定のような事実関係の下において会長宮川が欠席するに至つた場合においても、結局それが宮川自身の自由な意思にもとづくものと認められる以上、これをもつて「会長に事故があるとき」に該当するものというべきである。従つて本件総会において、被告会社取締役社長中川以良が議長をつとめたのは相当であり、被告会社定款に違反する点はないといわなければならない。

三、然らば、その他の点につき判断するまでもなく、本件総会の決議の方法が定款に違反することを理由として、本件総会においてなされた決議の取消を求める原告の本訴請求は、その理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浮田茂男 藤原弘道 松永剛)

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